※2020年10月15日のブログ記事の再掲です

ジャンガリアンハムスターのコロンちゃんは、おうちにあったネズミ捕りのトリモチにくっついてしまったということで緊急来院しました。
全身にべったりトリモチが付き、獣医師が到着したときにはコロンちゃんを連れてきた飼い主さんの手も、受け取ったスタッフもベタベタでした。

トリモチは無理に剥がそうとすると皮膚ごと剥がれてしまったり、動物がもがいて骨折してしまうことがあるので、無理に外そうとせず、全体に小麦粉をまぶした状態でご来院ください。
小麦粉は台所に常備されていることが多く、口に入れても無害で、トリモチの表面をコーティングしてくれるので、それ以上の接着を抑えることができます。

コロンちゃんはお預かりしてすぐに当院で小麦粉をふりかけ、呼吸を確認してからただちに麻酔を施しました。
小動物にとって、捕獲されて身動きが取れないということは大変なストレスになります。ストレスにより、トリモチを取る過程で死んでしまう可能性があったため、麻酔で意識をなくしてもらうことにしました。

小麦粉で真っ白になったままガス麻酔を吸入されているコロンちゃん。
写真では見にくいですが、左前足は下顎とくっついてしまい、自力で剥がすことができません。
また、胸には大きな裂傷がありました。

左脇の下から右脇の下まで裂ける大きなケガです。
トリモチを剥がそうとするうちに皮膚がさけてしまったのでしょう。
麻酔がかかっている間に各種注射を打ち、傷口だけを洗浄して縫合しました。

縫合が終わったら油で丁寧にトリモチを溶かしていきます。小麦粉効果でダマ状になっているので、油をつけるとジワ〜っと溶けて剥がれていきます。
麻酔がかかっているので油を誤嚥しないように、コロンちゃんの体温が下がらないように、心電図が付けられないので目視で呼吸を確認しながら、取り残しがないように、でも麻酔時間を短くできるよう手早く…色んなことに気を配りながらの細かい処置です。

油でトリモチの大半が取れたら、最後にシャンプーで油を洗い流します。シャンプー液を混ぜたお湯にコロンちゃんを入れ、チャプチャプと油を浮かせていきます。
勤務医時代に受けた海鳥重油汚染救護セミナーの技法がここで役立つとは…なんでも経験しておくものですね

最後に麻酔から覚ましながらドライヤーで乾かして工程は終了です。 
今回はコロンちゃんの処置が大掛かりだったのと、大きな外傷があったため、全てのトリモチが取り切れていなくても良しとしました。
生命を維持できる状態までトリモチを取ったら、体力が回復してから2度目の処置をすれば良いので、無理はしませんでした。

処置後は軽い低体温を起こしましたが、コロンちゃんはこの処置を乗り越えてくれました。
足は不自由そうでしたが、食餌がとれたので当日退院としました。
長い処置時間、ずっと待合室で待っててくれたご家族はとても喜んでくださり、私も嬉しかったです!

再診日には傷口の裂開も炎症もなく元気に動き回って、全身状態はとても良好だったのですが、追加の検査で肩の脱臼が見つかりました。おそらくトリモチから逃れようともがいたときに外れてしまったのだと思います。時間が経過していたことと、日常生活に支障がなかったため、内服のみで対応することにしました。
また、わずかに取り残したトリモチは自分でグルーミングして綺麗に取っていました。エライぞ!コロンちゃん